日本に生息するライチョウの数
日本には、どのくらいの数のライチョウが生息しているのでしょうか?そのことを明らかにするには、どんな調査をしたら良いのでしょうか?この問題に取り組んだのが、信州大学教育学部で30年間ライチョウの研究をした私の恩師羽田健三先生でした。北アルプス爺ヶ岳での春から秋にかけての生態調査から、雄はなわばりを持ち一夫一妻で繁殖することに注目しました。山ごとのなわばり数を調べたら良いと考えたのです。
この鳥がなわばりを持つのは、5月6月の繁殖期です。この時期に山に登り、ライチョウを発見し、その行動観察と生活痕跡の調査から山ごとのなわばり数を推定する調査を行い、20年ほどかけて全山の調査を終えました。
その結果、日本には合計1180個のなわばりが存在すると推定しました。この鳥は雌の数より雄の数が多いため、雌を得られずになわばりを持たない「あぶれ雄」がいます。平均して3雄のうち1雄があぶれ雄であったことから、合計なわばり数を2.5倍した数2,950 が生息個体数としました。これにより、当時本州中部に生息するライチョウの数は約3,000と推定されました。
標識によるライチョウの個体群調査
羽田先生は、ライチョウを近くから観察することで、この鳥の高山での生活を明らかにされました。しかし、観察だけからでは明らかにできない問題も多くあります。この鳥の寿命や年間の死亡率、さらには同じ個体が毎年同じ場所になわばりを持つのか、同じ相手とつがいになっているのかなどの問題です。
50歳を過ぎてライチョウ調査を再開した私は、ライチョウを捕獲し、足環をつけることで1羽1羽を個体識別できるようにした調査を開始しました。
いわば、1羽1羽のライチョウの戸籍づくりを基にした長期間にわたる山ごとの集団を対象にした追跡調査です。
2001年からの乗鞍岳での調査を最初に、南アルプスの白根三山、火打山など計5つの山岳でも調査が開始され、いずれの集団も現在まで調査が継続されています。また、北アルプスの立山と南アルプス南部でも、他のグループにより同様の調査が行われています。
これらの調査で得られた資料が現在行われているライチョウの保護対策実施にあたっての基礎となっています。