令和4年(2022年) 研究所活動の概要報告
一般財団法人 中村浩志国際鳥類研究所
代表理事 中村 浩志
令和4年(2022年)は、11月初旬に実施した駒ケ岳調査を最後に、今年の山での活動を終えました。 令和4年の調査結果と保護活動の成果や課題等を纏めてみました。その概要を報告したします。
ライチョウ調査と保護活動
令和4年、私は合計103日間、山の上で過ごしました。昨年は、101日間でしたので過去最高となりました。令和4年の活動山域とスケジュールは下記の通りです。
日付 | 活動山域 | 内容 | 参加人数 | 期間 |
---|---|---|---|---|
4月30日~5月1日 | 乗鞍岳 | なわばりと足環確認調査 | 4名 | 2日間 |
5月3日~5月5日 | 中央アルプス | なわばりと足環確認調査 | 8名 | 3日間 |
5月13日~5月15日 | 中央アルプス | なわばりと足環確認調査 | 6名 | 3日間 |
5月19日~5月21日 | 火打山 | なわばりと足環確認調査 | 3名 | 3日間 |
5月28日~5月30日 | 乗鞍岳 | なわばりと足環確認調査 | 4名 | 3日間 |
6月2日~6月3日 | 火打山 | なわばりと足環確認調査 | 2名 | 2日間 |
6月4日~6月5日 | 乗鞍岳 | なわばりと足環確認調査 | 3名 | 2日間 |
6月10日~6月12日 | 南アルプス白根三山 | なわばりと足環確認調査 | 4名 | 3日間 |
6月16日~6月17日 | 南アルプス仙丈岳 | なわばりと足環確認調査 | 3名 | 2日間 |
6月21日~6月25日 | 中央アルプス | なわばりと足環確認調査 | 4名 | 5日間 |
6月27日~7月27日 | 中央アルプス | ケージ保護 | 多数 | 30日間 |
8月1日~8月3日 | 乗鞍岳 | ヒナの生存状況・標識調査 | 4名 | 3日間 |
8月5日~8月6日 | 南アルプス仙丈岳 | ヒナの生存状況・標識調査 | 3名 | 2日間 |
8月9日~8月14日 | 中央アルプス | ケージ保護(動物園個体) | 多数 | 6日間 |
8月21日~8月22日 | 中央アルプス | ヒナの生存と足環確認調査 | 3名 | 2日間 |
8月24日~8月26日 | 火打山 | ヒナの生存と標識調査 | 1名 | 3日間 |
8月29日~9月1日 | 中央アルプス | ヒナの生存と足環確認調査 | 4名 | 4日間 |
9月5日~9月7日 | 火打山 | ヒナの生存と標識調査 | 1名 | 3日間 |
9月12日~9月14日 | 乗鞍岳 | ヒナの生存状況・標識調査 | 2名 | 3日間 |
9月17日~9月18日 | 焼岳 | ヒナの生存と標識調査 | 3名 | 2日間 |
9月27日~9月28日 | 乗鞍岳 | ヒナの生存状況・標識調査 | 3名 | 2日間 |
9月30日~10月1日 | 南アルプス仙丈岳 | ヒナの生存状況・標識調査 | 3名 | 2日間 |
10月4日 | 焼岳 | ヒナの生存と標識調査 | 3名 | 1日 |
10月11日~10月12日 | 中央アルプス | ヒナの生存と標識調査 | 3名 | 2日間 |
10月14日~10月16日 | 南アルプス白根三山 | ヒナの生存状況調査 | 3名 | 3日間 |
10月19日~10月20日 | 火打山 | ヒナの生存と標識調査 | 2名 | 2日間 |
10月23日~10月25日 | 中央アルプス | ヒナの生存と標識調査 | 2名 | 3日間 |
11月5日~11月6日 | 中央アルプス | ヒナの生存と標識調査 | 1名 | 2日間 |
山域毎の活動状況を下表に示します。
(*注:2022年 焼岳については噴火警戒レベルにより入山できず今年のなわばり調査はできず)
山域 | 活動回数 | 活動日数 | 延べ人数 |
---|---|---|---|
南アルプス白根三山 | 2回 | 6日間 | 9人 |
南アルプス仙丈岳 | 3回 | 6日間 | 6人 |
乗鞍岳 | 6回 | 15日間 | 12人 |
中央アルプス(調査) | 8回 | 24日間 | 36人 |
中央アルプス(ケージ保護) | 2回 | 36日間 | 多数 |
焼岳(注) | 2回 | 3日間 | 9人 |
火打山 | 8回 | 13日間 | 10人 |
総計 | 28回 | 103日間 | 82人+多数 |
中央アルプスライチョウ復活事業の概要
● 現在までの経緯
中央アルプスライチョウ復活事業は、令和2年(2020年)に乗鞍岳からヘリで空輸した3家族(計19羽)と令和元年(2018年)飛来雌1羽の計20羽の集団(創始個体群)を基に2020年から復活事業が行われています。
● 本年の活動概要と結果
今年も、多くの方の協力を得て、駒ヶ岳を中心とした中央アルプス北部一帯のライチョウの生息状況調査とケージ保護を実施することができました。
昨年(令和3年、の2021年)の保護活動により、8なわばりが確立され、計18羽(雄8、雌10羽)が繁殖しましたが、今年は 17なわばり、41羽(雄20羽、雌21羽)が繁殖し、中央アルプスで繁殖する数を1年間に2倍以上に増やすことができました。
また、昨年は北の将棋の頭から中央アルプス中部の熊沢岳までしたが、今年は南端の南駒ケ岳まで分布が広がり、中央アルプス全体で繁殖が見られるようになりました。
今年は、孵化直後の7家族をケージに収容し、悪天候と捕食者から人の手で守った後に放鳥できました。また、那須どうぶつ王国からの3家族計19羽(雌親3羽+ヒナ計16羽)、茶臼山動物園からの雄1羽と雌2羽の合計22羽(雄1羽+雌5羽+ヒナ16羽)をヘリで中央アルプス駒ケ岳に空輸し、野生復帰に成功しました。
その結果、2020年8月初めの20羽から、翌2021年8月初めには64羽と1年間で3倍以上に数を増やす事に成功しました。さらに今年は動物園からの個体の野生復帰個体も加え、8月初めには119羽と、前年の2倍近くに数を増やすことに成功しました。
これらの結果から復活事業はこれまで順調に進んでおり、来年2023年には100羽近くが中央アルプスで繁殖することが期待されています。
● 新たに見つかった課題
新たな課題も見えてきました。ここに来て、捕食者の問題が深刻になりつつあります。
駒ヶ岳の山頂付近から馬の背尾根と伊那前岳の稜線には、2020年から毎年センサ―カメラを設置し、キツネ、テン、サル等の動向を監視しています。それによると、今年は昨年に比べ4.7倍も多くのキツネが撮影されている事が確認できました。テンの撮影頻度も増加傾向にあります。
また、ケージ保護した雛の放鳥後の調査により、雛たちが母親から独立する10月までの間に確認された雛の捕食跡発見数は、昨年は放鳥した雛計19羽のうち1羽(約5%)でしたが、今年は35羽放鳥中の5羽(約14%)で、率にして3倍近く増えています。この捕食された雛5羽は、放鳥した後すぐに捕食されており、捕食したのはいずれもキツネでした。
幸いなことに、親鳥と孵化後40日間を経過した雛の生存率は比較的高いことから、来年(令和5年、2023年)は放鳥直後の時期の雛をキツネ等の捕食から守る対策が必要である事が、課題として見えてきました。
繫殖モニタリング山岳での繁殖状況の概要
主な山岳でのライチョウの繁殖数や繁殖状況を把握するため、以下の5つの山岳で足環標識によるモニタリング調査を長期間にわたり実施しています。今年も、多くの方の協力により調査した結果の概要は、以下の通りです。
多くの山岳で数が減少傾向にあり、今年は雛が順調に育っていない山岳が多く、今後が心配されます。
● 南アルプス白根三山
2004年から現在まで、ほぼ毎年春のなわばり調査と秋の雛の生存状況調査が実施されています。今年の北岳と間ノ岳一帯のなわばり数は13と推定されました。秋の調査では、今年生まれの雛は確認できず、雛は育っていないことが分かりました。
2014年の最低8なわばり以後、翌年から北岳山荘近くで実施したケージにより、5年間で32なわばりと4倍に増加し、1981年の63なわばりの半分近くに回復しましたが、その後は減少しています。
● 南アルプス仙丈岳
2013年から毎年調査が行われていますが、今年のなわばり数は12と推定されました。8から15なわばりの間で推移し、比較的安定しています。雌が連れていた雛数の平均は2.4羽で、ここでは雛はほぼ順調に育っています。
● 乗鞍岳
2001年から今年まで20年間以上毎年調査してきています。今年のなわばり数は47と推定され、昨年の62なわばりから大きく減少しました。
1970年代から2000年代初めには50なわばりほどで安定していましたが、その後2009年には100なわばりを超えました。しかし、その後減少し、2017年に再び90なわばりに増加した後、現在まで減少が続いています。
今年の雌1羽当たり連れていた雛数の平均は1.0羽でここ数年、雛はわずかしか育っていません。
● 焼岳
焼岳のなわばり数については、2012年から毎年調査を行っています。この間、4~8なわばりで推移していますが、今年は噴火警戒レベルが高まったため、入山禁止となり、なわばり数の調査は実施できませんでした。秋の調査で、雛3羽を連れている家族を確認でき、3羽の雛を標識しました。
● 火打山
2007年から毎年調査を行っています。今年のなわばり数5、繁殖数は11羽でした。火打山の繁殖数は、2009年に18なわばり、41個体が繁殖していましたが、その後年々減
少してきています。今年のなわばり数5、繁殖個体数11羽は、1967年からの調査以来最も少ない数でした。
火打山イネ科植物除去作業
火打山のライチョウは、日本最北端の繁殖集団であり、日本最小の繁殖集団で、かつ最も標高の低い場所で繁殖する集団です。
温暖化の影響を最も強く受けている集団で、ライチョウの採食地として重要なコケモモやガンコウランのある風衝地の矮性常緑低木群落へのイネ科植物等背の高い植物の侵入により、生息間環境が急速に悪化しています。
そのため、イネ科植物等の試験的除去実験を踏まえ、2020年から広い面積でイネ科植物を除去し、「ライチョウ平」にライチョウを取り戻す事業をボランテイアの参加を得て実施されています。
3年目にあたる今年は、8月24日~26日と9月5日~7日に2回実施され、後者をわたしどもの研究所が中心となり実施しました。
中村浩志国際鳥類研究所 WEBページを新設
今年2月に研究所のWEBページを新設し、ライチョウに関する情報発信を行っています。
松本チャリティーイベントの開催
チャリティ講演会、写真展&ミニコンサートを松本信毎メデイアガーデンで4月11日~17日に開催し、多くの方に来場を頂きました。
クラウドファンディングの実施
今年度の復活事業で不足する資金を補うため、「中央アルプスにライチョウを復活させる」CF信州クラウドファンディングを実施。実施期間は4月16日~7月5日。目標金額の500万円に対し、848万円を寄付いただきました。
集まった資金は、駒ケ岳一帯からのサルの追い払い、ケージ保護、なわばり分布、繁殖数や雛の生存状況調査、さらに火打山のイネ科植物の除去、ライチョウの普及啓発活動等に使用されることになりました
ライチョウグッズの制作と販売
ライチョウの普及啓発活動として行ったチャリティーイベントとクラウドファンディングの返礼品のため、ライチョウグッズの制作と販売を行いました。
制作したグッズの販売は、ライチョウイベントの折の他、ライチョウの講演会の折、10月に実施したライチョウ会議大会の折、さらに宝剣山荘で販売しました。
今年11月末までの販売総額は、1,331,690円となりました。
第20回ライチョウ会議長野県駒ケ根・宮田大会の開催
コロナ感染症のため1年間延期されていたこの大会が10月9日と10日に駒ケ根市文化会館大ホールで開催しました。
● シンポジウムと専門家会議
10日1日目のシンポジュウムは、多くの方が参加し、講演とデスカッションが行われました。2日目の専門家会議では、域内保全の取り組み、域外保全の取り組み、大学等の取り組みについて、研究発表と意見交換が行われました。
● ライチョウ観察会
大会後の翌11日には、24名が参加した駒ヶ岳周辺でのライチョウ観察会が実施されました。参加いただいた方に目の前で無事に育つライチョウをみていただくことができました。
● ライチョウ会議の映像公開
大会のシンポジュウムと専門家会議の映像は、現在研究所のホームページで公開中です。報告書は、来年の2月に研究所のホームページ等でWeb 公開される予定です。
ライチョウに関するテレビ番組の放映
ライチョウの調査と保護活動は、今年以下の5つの番組で放送されました。
- 1月31日20時~21時 NHK BSプレミアム ワイルドライフ 「絶滅から救え!中央アルプスライチョウ復活作戦」
- 9月11日17:3~18:00 NHK総合 ダーウィンが来た「ライチョウ 幻の生息地復活作戦」
- 12月4日17:3~18:00 NHK総合 ダーウィンが来た「目指せ高山! ライチョウ里帰り大作戦」
- 12月10日15:30~16:00長野朝日放送 テレメンタリー2022 「よみがえれ ”神の鳥“ (他の朝日系テレビ局でも放送)
- 12月18日8:25~10分間 NHK総合 週刊まるわかりニュース「ライチョウ復活作戦」
クラウドファンディング参加者へのビデオレターの配信
寄付いただいた方には、山の上で撮影した映像をビデオレターとして配信しました。計14回の配信で、ケージ保護など現場での活動を多くの皆さんに知って頂く良い機会となったと思っております。
研究所評議員会と理事会の開催
2022年5月25日研究所の評議員会と理事会が開催され、令和3年度の決算報告と事業報告及び令和4年度の予算案と事業計画を審議し、了承されました。
研究所役員
- 評議員 : 滝沢正幸・坂井永一・中村ミエ
- 理事 : 中村浩志(代表理事)・若林邦彦・市村次夫・有山茂和・瀧澤堅一
- 監事:小林邦一
日韓国際環境賞の受賞
当研究所は、第28回日韓国際環境賞(The Asian Environmental Awards、毎日新聞社と韓国朝鮮日報社 共催)を受賞しました。受賞式は、10月28日韓国ソウルで開催されました。
受賞理由は、ライチョウの保護への貢献でした。
「日韓国際環境賞」は、日韓国交正常化30周年に当たる1995年、東アジア地域の経済発展と環境保全の調和を図るため、毎日新聞社と朝鮮日報社が共同で創設したもので、東アジア地域の環境保全に貢献した個人・団体が選定・表彰されてきました。