ライチョウを脅かさない観察と撮影マナーのお願い

 2020年に20羽から始まった環境省による絶滅した中央アルプスにライチョウを復活させる試みは、2025年の秋には150羽の雛が育ち、繁殖個体と合わせると350羽を超えるまでになりました。この数は、もとの乗鞍岳の集団(約150羽)の2倍以上で、中央アルプスにライチョウは完全に復活しました。

 その結果、ロープウェイを使ってライチョウを見に訪れる方が急増し、YAMAPによると2025年に甲信越エリアの山を訪れた登山者数は、中央アルプス木曽駒ヶ岳が第1位になりました。木曽駒ヶ岳は、日本で最も手軽にライチョウに会える山になったのです(写真1)。

写真1 夏の時期、多くの登山者がロープウェイを使って中央アルプスの木曽駒ヶ岳を訪れます。この時期、木曽駒ヶ岳周辺では多くのライチョウの家族が子育てをしています。ライチョウを見つけても、子育ての邪魔をしないよう、そっと見守ってください。

 環境省は、2026年4月からの次年度以降の事業として、登山者にライチョウを脅かさない撮影マナーの周知をポスターや冊子を作成して呼び掛けることになりました。中央アルプスのライチョウは、多くの方の献身的な努力によって復活できましたので、登山者の皆さんには、以下のライチョウ観察と撮影のマナーを守っていただき、ライチョウとの出会いを楽しんでいただくよう、当研究所としても広く呼び掛けていくことになりました。

1.登山道でライチョウに出会ったら一歩後ろに下がりましょう。

ライチョウの方が先に気づいていますので、さらに近づくと逃げる体勢をとり、じっくり観察できなくなります。まずは安心させ、離れた場所から観察し、撮影してください(写真2)。

写真2 ライチョウを見つけたら、すぐには近づかないで見守りましょう。近づきすぎたら警戒し、逃げ出すからです。まずは安心させ、写真のように離れた場所から観察や撮影を楽しんでください。
2.登山道以外でのライチョウの撮影はやめましょう。

 夏山では登山者は登山道を歩くのが原則です。登山道から出て、ライチョウを追い回しての撮影は絶対にしないでください。そのような人を見かけたら注意しましょう。ライチョウは、氷河期以来の日本の高山の住人です。後から入ってきた人間は、彼らの生活圏にお邪魔しているという謙虚さを持っていただけたらと思います。

3.飛べない雛を連れた家族への接近撮影はしないでください。

 飛べない雛を連れている時期、雌親は雛を置いて自分だけ飛んで逃げることはしません。雌親は、雛を守ることに必死で、最も神経質になっている時期です。逃げないから近づいても良いのではありません。ライチョウは、国の特別天然記念物で絶滅危惧種であることを自覚してください。

4.飛べない雛を連れている家族に多くの人が集まっての観察や撮影はやめましょう。

 飛べない雛を連れた家族に多くの人が集まっているのを見かけます。人に囲まれて雛が親についていけなくなり、親からはぐれてしまうことが起きています。雛は、親からはぐれたら生きていけません。

5.巣の撮影や巣の前での長時間撮影はやめましょう。

 登山道を歩いていて、ライチョウの巣が見つかることはありません。ですので、ライチョウの巣を撮影した写真は、登山道から出てライチョウの巣を探し回り撮影したものです。見つけた巣の前で、長時間にわたりカメラを構えることは、雌親に大きなストレスを与え、また人の匂いをつけることで、キツネやテンによる捕食の危険にさらすことになります。

6.ライチョウの棲む高山でドローンを飛ばすことはやめましょう。

 登山を楽しむ人の迷惑になるだけでなく、ライチョウの脅威となります。ライチョウ最大の昼間の天敵は、猛禽類だからです。特に雛づれの家族には、大きなストレスになります。まして、ドローンを使ってのライチョウ撮影はやめましょう。

7.撮影したライチョウの写真をSNS等に一般公開することは控えましょう。

 撮影したライチョウの写真を友達同士で楽しむことは問題ないのですが、不特定多数の人が見るサイトに掲載すると、真似をして自分でも撮影したいと思う人が出てくるからです。撮影マナーに違反する人を増やすことになります。

 以上、ライチョウの観察と撮影マナーについてまとめました。今後も環境省と共に私からもこの問題について登山者に呼び掛けていきたいと思います。皆様のご理解とご協力、よろしくお願いします。

また、今回のライチョウの観察と撮影マナーについて、
皆様のご意見を聞かせていただけましたら幸いです。
この問題を皆様と共に考えてゆきたいと思います。

一般財団法人中村浩志国際鳥類研究所
代表理事 中村浩志

lagopus@hnbirdlabo.org