ライチョウが山から降りたのを確認し、今年の調査を終えました

根雪となり、ライチョウは山からいなくなりました

 新雪後の11月7日と8日の調査に引き続いて15日に再度積雪後のライチョウ調査を木曽駒ヶ岳で実施しました。同行いただいたのは、北村忍さんです。

今回確認できたのは、数ヶ所でライチョウの新しい足跡を新雪上に確認できたのみで、個体は発見することはできませんでした。ただし、登山者の一人が、中岳の宝剣岳寄りの登山道脇ハイマツの中で1羽の雄を見つけ、写真に撮影していました。

今回の調査から、今年2回目の9日の積雪により木曽駒ヶ岳一帯のほとんどの場所では根雪となり(写真1・2)、一部の個体を除き、大多数のライチョウは山から降り、高山帯からいなくなっていることがわかりました。

写真1 中岳からの宝剣岳、宝剣山荘、天狗荘周辺の積雪状況。7月15日撮影
写真2 木曽駒ヶ岳と頂上山荘周辺。ほとんどの場所で根雪となっていました

昨年は、11月中旬でも見かけましたので、今年は一足早いライチョウの下山となりました。

 ライチョウが下山したことで、今回の木曽駒ヶ岳での調査は、私の今年最後のライチョウ調査となりました(写真3)。

写真3 今年最後の調査となったため、下山前に記念写真を撮りました

冬季の課題は越冬場所の確認

 60歳代の初めに乗鞍岳で3年間冬季のライチョウの生態を調査しました。それにより、乗鞍岳では12月から翌年の3月までの4ヶ月間、ライチョウは高山帯からいなくなり、森林限界以下の亜高山帯に降りて越冬していることがわかりました。

 これまでの登山者による情報から、中央アルプスでは北の端の将ギ頭山の森林限界付近が越冬地の1つになっていることがわかりましたが、それ以外に越冬地がどこにあるかはわかっていません。現在、中央アルプス一帯には、今年繁殖した200羽の成鳥と今年生まれた150羽の若鳥を合わせると350羽ほどが生息しています。

 これらの個体がどこで越冬しているかを知ることが、これからの課題となっています。冬山に登られる登山者の皆様の情報を期待しています。冬山でライチョウに出会う機会がありましたら、情報を提供いただけますようお願いいたします。

 冬の間ライチョウは真っ白なうえに、雪穴の中で過ごしていることが多いので、見つけるのが困難ですが、越冬地となっている場所には足跡が残されています。ですので、まず足跡を見つけてください(写真4・5)。

写真4 雪に残されたライチョウの足跡。2017年10月26日、乗鞍岳で撮影
写真5 3本指の足跡がライチョウの特徴

 冬の間、ライチョウはごく狭い範囲で生活していますので、足跡を頼りに姿を見つけることができます。

ライチョウを見つけたら写真や動画で足輪の色の確認をお願いします(写真6)。左右の足に2個ずつ付けた足輪の色の組み合わせがわかれば、どこで繁殖した個体か、年齢等がわかります。

写真6 色足輪が付けられたライチョウ。中央アルプスに生息するほとんどの個体は足輪がついています。

この時期を境にライチョウの生活は大きく変わります

生活場所が高山帯から亜高山帯に変わることで、冬の時期の食べ物は、それまでの高山植物の実や葉からダケカンバ、ミヤマハンノキなどの落葉樹の冬芽になります。その食べ物の変化により、糞の形も変わります。夏の間は、白い尿酸の付いた丸い糞をしますが(写真7)、冬には細長く茶色をした固い冬糞になります(写真8)。

尿酸は、鳥類の窒素代謝の最終生成物で、糞と共に排泄されますが、冬糞にはその白い尿酸がついていません。

写真7 ライチョウの夏糞
写真8 冬糞。白い尿酸はついていない

また、冬の時期には、野生のライチョウは盲腸糞(写真9)をしません。
これらのことから、冬の時期のライチョウは、ほとんど動き回らず、新陳代謝を抑え、エネルギーの消耗を極力少なくしていることがわかります。

また、冬の時期には、ライチョウはほとんど死ぬことはありません。ライチョウにとって、冬の時期は天敵が少なく安全に過ごせ、ゆっくりできる最も快適な時期なのかもしれません。

写真9 盲腸糞