冬の中央アルプスでライチョウの観察の報告を頂きました

2023年1月13日、愛知県犬山市にお住まいの写真家大島隆義さんが、中央アルプスの北の端、将棋頭山でライチョウ雄2羽を動画と写真に撮影されました。

そのニュースは、1月24日付けの信濃毎日新聞等に掲載されましたが、貴重な記録ですので、大島さんの了解を得て研究所のホームページにその詳細を掲載させていただくことになりました。

観察されたライチョウたち

雄2羽はいずれも色足環で標識されていました。

写真1の赤赤・赤空の雄は、2018年に中央アルプスに半世紀ぶりに飛来した雌(赤赤・赤赤)が初めて2021年に残すことができた雛で、翌2022年に将棋の頭になわばりを確立し繁殖した個体です。今回、この雄は真冬にもなわばり内で過ごしていることが確認されました。

写真1:オスのライチョウ(赤赤・赤空)©Takayoshi Oshima;

写真2の黒黒・黄黒の雄(動画1)は、昨年の2022年那須どうぶつ王国で生まれ、8月10日にヘリで中央アルプス駒ケ岳に空輸され、放鳥された雛です。この雄は、雌親から独立した後の10月までは駒ケ岳周辺にいましたが、この冬の時期には、将棋頭山に移動し、そこになわばりを持っていた雄と行動していることが分かりました。

写真2:オスのライチョウ(黒黒・黄黒)©Takayoshi Oshima;
2023年1月13日に撮影されたオス(黒黒・黄黒)、© Takayoshi Oshima

観察地について

乗鞍岳で3年間冬のライチョウを調査した結果では、雄は冬期には繁殖地の高山帯から森林限界付近まで降り、雌は更に下の亜高山帯まで降り、雌雄が異なった場所で越冬していました。ですので、今回この時期に2羽の雄が将棋頭山の山頂付近(標高2,626m)で観察されたことは意外でした。

写真3:森林限界付近で過ごすライチョウ ©Takayoshi Oshima;

その理由は、将棋頭山は標高の低い繁殖地で、山頂のすぐ下には越冬可能な森林限界があること(写真3)、また今年の1月中頃までは、高山での積雪が少なく、高山帯の風衝地でも採食可能な状態であったためと考えられます。大島さんが撮影された2枚の写真をご覧ください。写真4は将棋頭山を東から撮影したものです。

写真4:将棋頭を東側より撮影。©Takayoshi Oshima;

写真5は将棋頭山南の北西斜面から撮影したものです。高山帯の風衝地にハイマツが顔を出しており、一部には裸地も見られ、この時期であっても高山帯で採食が可能なことがわります。今年のように積雪が少ない年には、雄は可能な限り、繁殖地に近い高山帯に留まろうとしているものと考えられます。

写真5:将棋頭山南より木曽駒方面を望む ©Takayoshi Oshima;

皆様からの観察報告の意義

今回、大島さんの了解を得て、将棋頭山でのライチョウの発見をあえて取り上げたことには、理由があります。

現在進めている中央アルプスにライチョウを復活させる事業は、2020年に乗鞍岳から3家族計19羽を駒ケ岳に空輸したことから始まっています。この19羽に2018年に飛来した1羽の雌を合わせた計20羽が復活の創始個体群でした。この20羽のうち18羽が翌2021年に繁殖し、2年目の昨年2022年には41羽が繁殖しました。3年目にあたる今年2023年には、100羽近い個体が中央アルプス全体で繁殖することが予想されています。これら多数の個体の繁殖の状況を把握するには、調査にあったっている我々の限られた予算ではすでに限界に来ています。ですので、多くの登山者の方からの今回大島さんから提供いただいたような情報が大変役立ちます。

現在、中央アルプスに生息する個体のほとんどに足環が装着されていて、親子関係等の個体ごとの履歴が分かっています。ですので、皆さんが山で発見したライチョウの足環の情報は、きわめて貴重な情報で、保護を進める上で大変役立ちます。

絶滅した中央アルプスに、20羽の集団を元にしてどのように新たな繁殖集団が復活してゆくかの過程を明らかにするという前代未聞の試みは、学問的にも、また今後の希少野生動物の保護を進める上でも大変役立つ資料となります。

登山者の皆様の一層のご理解とご協力、どうぞよろしくお願いいたします。