2022年那須どうぶつ王国で生まれ、
今年中央アルプス伊那前岳で繁殖した雌の紹介

 黒黒・黒赤の足環を装着した雌は、2022年に那須どうぶつ王国で生まれ、その年の8月に中央アルプス駒ケ岳にヘリで戻された今年1歳になる野生復帰に成功した個体です。
この雌は、今年伊那前岳で繁殖しました。

今回は、この雌の卵の孵化から巣立後、この家族をケージに収容するまでの様子について紹介したいと思います。

この那須どうぶつ王国生まれの1歳雌は、伊那前岳になわばりを持つ今年2歳になる雄とつがいとなり、6卵を産卵しました。7月1日から卵の孵化が始まり、翌2日の朝に無事孵化した6羽の雛が雌親に連れられて巣立ちしましたので、その様子を動画で以下に紹介します。

動画は右のリンクより動画サイト(YouTube)にてご覧いただけます。

以下に、動画中の様子について説明をさせて頂きます。

巣立ち

動画タイム00:05~00:39
実日時2023年7月2日 午前5時半ころ

先に孵化し、羽毛の乾いた雛が巣に座る雌の周りに出てきていました

動画タイム00:05~01:00
実日時2023年7月2日 午前6時40分ころ

6羽の雛すべてが孵化を終え、巣に座る雌の前に勢ぞろいしました

動画タイム01:00~01:51
実日時2023年7月2日 午前10時50分ころ

雌と6羽の雛がハイマツを抜け、開けた場所に出て採食を開始しました

  • 解説
    • 巣立ったライチョウの雛は、再び巣に戻ってくることはありません。
    • 巣は、毎年新しい場所に造られます。
    • 孵化した雛をその後3ヶ月間世話をするのは雌親で、雄親は手伝いません。
    • 雛は、母親の小さな鳴き声が届く範囲を自由に行動します。

巣立ち日の家族生活

動画タイム01:51~02:32
実日時2023年7月2日 午前11時30分ころ

7月2日は、2日間続いた悪天候の後の晴天日でした。

巣立った雛が最初に経験した抱雛(動画4)。孵化した雛は自分で体温維持をすることができません。そのため、体が冷えると母親のお腹の下に入り温めてもらいます。

ただし、この日は晴天でしたので、雛は抱雛の途中で母親の腹の下から出てきてしまいました。暑すぎる為です。母親もこの日は暑すぎて、口をあいて呼吸し、喉から熱を発散させていました。

動画タイム02:32~02:32
実日時2023年7月2日 午後4時分ころ

ハイマツの下での抱雛。それでも暑すぎて、雛たちは外に出てしまいました

動画タイム02:32~03:01
実日時2023年7月2日 午後4時分ころ

ハイマツの下での抱雛。それでも暑すぎて、雛たちは外に出てしまいました

  • 解説
    • ライチョウの餌は、高山植物です。雛たちは、芽吹いたばかりの柔らかい植物の芽や葉をついばんで食べる他、昆虫も時々捕えて食べています。
    • 雌親は時々雛を呼び集め、食べられる餌やおいしい餌を雛に教えます。

夕方に家族を小型ケージに収容

この那須どうぶつ王国生まれ雌の家族は、ケージに収容し、一ヶ月間悪天候と捕食者から人の手で守ってやることにしました。
しかし、この雌の家族を頂上山荘に設置した大型ケージまで誘導するには、距離が約2㎞と遠すぎます。そのため、この日の夕方、近くに設置した小型ケージに一旦収容し、そこで一晩泊めた後、翌3日の朝にケージごと担いで運び、大型ケージに収容することにしました。

動画タイム03:01~03:25
実日時2023年7月2日 午後4時分ころ

小型ケージに収容するために家族の誘導を開始

動画タイム03:25~05:15
実日時2023年7月2日 午後4時ころ

収容前に家族が小型ケージの前で抱雛開始。抱雛後に小型ケージに誘導して収容

収容後、ケージごとシートで包み、近くに置いて一晩泊めることにしました。

  • 解説
    • ケージへの収容は、ハイマツの枝でケージをカムフラージュすることで、気がついたらケージの中に入っていた状況にすることがコツです。
    • 家族の入ったケージをシートで包むのは、夜間にテン等に捕食されないようにするためです。翌朝小型ケージごと担いで運び、大型ケージに収容しました。

翌朝小型ケージごと担いで運び、大型ケージに収容

動画タイム05:15~05:44
実日時2023年7月3日 午前5時ころ

家族を収容した小型ケージを担いで運搬

途中で何回かケージを平な場所に置き、休ませ、餌を食べさせる

動画タイム05:44~05:54
実日時2023年7月3日 午前9時ころ

4時間かけて運搬し、頂上山荘第3ケージに家族を収容しました。

この雌は、その後ケージと世話をする人にすっかり慣れ、7月14日現在6羽の雛を無事に育てています。雛は、孵化から14日目を迎え、体がずいぶん大きくなりました。食欲も旺盛です。
孵化後30日目となる7月30日には、6羽の雛を全員無事に放鳥したいものです。