カワラヒワの「大きさ」注目 「おとり無双」「ブリ縄」駆使

 カワラヒワは、北で繁殖する集団ほど体が大きいという「地理的変異」を発見した後、同じく体の大きさに注目した研究で、この鳥の「渡り」の問題も解明できました。

 北海道以北で繁殖する集団は冬に南に渡ります。山階鳥類研究所にあるカワラヒワの剥製標本で、東北以南の地域で冬に捕獲された個体の大きさを測定しました。すると、それぞれの地域には体の小さい留鳥(りゅうちょう)集団がいるほかに、体の大きい渡りの個体がいることが分かりました。その渡りの個体は、南の地域ほど体の大きな個体である傾向があったのです。

 カワラヒワは、繁殖の南限を超えた沖縄でも越冬しています。1月に沖縄を訪れて、越冬している個体を捕獲し、体の大きさを測定した結果、最も北のカムチャッカ半島で繁殖する集団であることが分かりました。また、剥製標本が十分にない九州の熊本にも訪れ、個体を捕獲し、ここには樺太や北海道で繁殖する集団が越冬していることを突き止めました。

「ブリ縄」を使って木に登り調査する私

 京都で越冬している集団も調べました。その結果、京都で越冬しているのは、東北あたりで繁殖している集団でした。つまり、カワラヒワは、北で繁殖する集団ほど、冬にはより南に渡り、越冬していたのです。さらに、京都で越冬しているカワラヒワは京都盆地真ん中の開けた地域を利用し、林縁部で生活する留鳥の集団とは交ざり合うことがなく、異なる場所で生活していることも分かりました。

 こうした研究で役立ったのが、「おとり無双」という鳥の捕獲方法でした。教えてくれたのは、若い頃から京都で野鳥を捕獲して生計を立てていた古老。効率よく捕獲できずにいた私を見かねて、伝授してくれたのです。この方法は開けた場所に、ひもで結んだおとりのカワラヒワを1羽置き、近くをカワラヒワが飛んで来たらひもを引き、おとりを30センチほど飛び立たせます。すると、両翼の黄色の模様が目立ち、仲間がいることに気づき、その場に降りてきます。その瞬間ワイヤーを引くと、おとりの両側の地面に伏せておいた網が立ち上がり、鳥を包み込んで捕えます。

 鳥の群れる性質をうまく利用したこの方法は、餌付けの必要がありません。以後、北海道や沖縄など遠方の調査には、このおとり無双を使いました。この捕獲方法のおかげで、短期間に多数の個体を捕獲できました。

 京都の調査でもう一つ役立ったのは「ブリ縄」という、日本の伝統的な木登り道具です。調査では、巣の中の卵やひなの確認で木に登る必要があります。京都の御陵では、林のスギやアカマツの高い所に巣を作り、簡単には登れないケースがありました。その時に役立ったのがブリ縄でした。10メートルほどのロープの両端に、約50センチの棒を付けた簡単なものです。その棒を木の幹に巻き付けて足場を組み、一段ずつ登る道具です。当時、京都の北山杉の枝打ち職人も使っていたこのブリ縄は、信州大学に戻ってからもさまざまな鳥の調査に役立ちました。

 博士課程の最後の研究課題は、「カワラヒワのつがい形成の仕組み」の解明でした。京都のカワラヒワは、繁殖を終えた夏の間、京都盆地中心部の宇治川河川敷に集合していることは、それまでの調査から分かっていました。秋になってそこから繁殖地に戻ってきた時、集団での特殊な行動を通してつがい形成が行われていたのです。

聞き書き・斉藤茂明
(週刊長野)

2024年3月16日号掲載