研究者へのサポート体制 日本の大学との差を痛感

ニック・デービス教授(右)と、ケンブリッジ市内を流れるケム川のほとりで

 1994年、私は文部省(現・文部科学省)の長期在外研究員として外国に派遣されることになり、家族4人で1年近く、海外で過ごしました。

 この年のカッコウの調査をほぼ終えた7月13日、まずカナダのバンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学を訪れました。大学には托卵(たくらん)鳥の研究者がいて、千曲川で3年間一緒に研究をしたアーノン・ロテムさんも滞在していました。約1カ月間、彼と千曲川での研究のまとめと論文の作成をした後、同じカナダ・ハミルトンのマクマスター大学のギブズ氏を訪れ、カッコウの遺伝子解析について打ち合わせをしました。その後、オーストリア・ウィーンでの国際鳥学会に1週間ほど出席し、8月26日、英国のケンブリッジ大学に移動しました。

 ケンブリッジ大学を中心にした街並みは美しく、このケンブリッジの町に家を借りて家族4人で約7カ月間過ごしました。この間、小学生と中学生の娘2人は、現地の学校に通いました。

 ケンブリッジ大学は13世紀に創設された、世界的にも伝統ある大学です。一部の校舎は中世の頃の城でしたが、校内は近代化され、世界最先端の研究が行われていました。歴史と伝統とともに、新しくて自由な雰囲気に圧倒されました。

 大学の動物学教室では、京都と軽井沢の国際会議で親交を深めたニック・デービス教授が、カッコウの研究をしていました。ケンブリッジ大学は多くのノーベル賞受賞者を輩出しており、私が通った動物学教室だけでも当時19人いました。その中には「DNAの二重らせん構造」で生理学・医学賞を受賞した、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックの2人もいました。当時、二重らせんの模型を製作する高度な技術者がいて、二重らせん構造の解明に大きな貢献を果たしたことが、模型とともに展示されていました。大学全体で研究者をサポートする意識と体制が整っていることに、日本と英国の大学の差を痛感しました。

 大学では、毎週講演会がありました。さまざまな分野の研究者が最先端の成果を発表するので、幅広い知識を吸収でき、刺激になりました。私もカッコウの研究について発表しました。

 ニック・デービス教授は、行動生態学の第一人者で、宿主(しゅくしゅ)が托卵を回避する能力を高めると、カッコウはそれを超えるだましのテクニックを獲得し、お互いが競い合うように進化する「軍拡競争」を唱えていました。そのニック教授の研究室に机を借り、私が今まで行ってきたカッコウの研究を論文にまとめる作業に専念しました。その過程でニック教授とは情報交換や議論を重ねることができました。

 研究室のゼミでも、何度もカッコウの研究について発表しました。最初に、千曲川の調査地のカッコウをほとんど捕獲し、個体識別をして、その一部に発信機をつけて追跡調査をしたことを話すと、ゼミ生たちは驚きの声をあげました。カッコウの捕獲は難しいため、イギリスでは個体識別した研究はほとんど進んでいなかったからでした。

 彼の調査地を訪れた際には、私の捕獲手法を説明し、どこにかすみ網を設置したら良いかを指導しました。私が帰国した次の調査時期に私の捕獲手法を試みたものの、うまくいかなかったそうです。翌年、ニック教授の助手が来日し、千曲川で夏の間一緒に調査をしました。私の木登りを目撃した彼は驚き、ニック教授に、「『ナカムラメソッド(捕獲手法)』はナカムラの特殊能力によるところが大きい」と報告していました。

 妻と娘2人は翌年の3月末に日本に帰国しましたが、私は5月までケンブリッジに滞在し、英国各地の国立公園を車で訪れました。

 英国滞在中は、静かに落ち着いて研究のまとめをし、論文執筆に集中できたとても充実した時間でした。

 聞き書き・斉藤茂明(週刊長野)

2024年6月 1日号掲載